カウベル母娘の「庭めぐり旅日記」
第5話 シネマで巡る郷愁への旅路。
(その1) カサブランカ

<はじめにー映画のこと>

この映画をはじめて観たのはいつ頃のことだったのだろうか?
多分、顔にニキビのあった10代前半の頃だったように思う。
その頃私は田舎の小学校を卒業して街の中学に通っていた。
田舎者にとって、街の様子は見るものすべてが新鮮に目に映った。
何よりも映画館の看板が目を惹いた。特に洋画のポスターでみるスターの粋で華やかな光景は別世界のようだった。

以来、授業が終わるとよく映画館に通ったものだ。
多勢の人たちに混じって映画を観ていると、しだいに子供から大人に脱皮して大人の仲間になってゆくような気分だった。
学校の授業も大切だったが、いまこうして人生の半ばを折り返してふり返ってみると、当時の映画が数々のヒューマンな感動を与えてくれたことで、このような分別が正しいという生き方の手本として参考になっていることに感謝したい。

あれから半世紀ちかくの時がながれて、世の中は大きく変わってしまった。
映画はTVやビデオにとってかわり、街の映画館は次々と灯が消えてゆく。
ところがどうだろう。TVやビデオのおかげで映画を自室で観ることが出来る。
そして歳老いたこの目に映る当時の光景や、スターと呼ばれた俳優たちの名演技がなんと鮮やかでフレッシュなことか!
それはよき時代への郷愁なのか?
これらの名作映画は私を再びその虜にしてしまう。
もし、私と同じような思いのご同輩がいらっしゃればシネマによる郷愁への旅にとお誘いしたい。

<はじめにー水彩画のこと>

暇があれば庭に出て庭いじりや、庭の写真を撮ることに興じていたのですが、最近、絵を描くことに興味を持つようになりました。
英国で特に18世紀に盛んだった水彩画は、300年以上の伝統があり、あのチャールズ皇太子も35年以上の画歴をもってプロ級の腕前といいます。(BISES 1995夏号参照)
透明感のある水彩は風景はもちろん好きな庭や花を描くのに適していると思ったことや、あるYB会員の方のHPから絵による自己表現の魅力を知ったことが動機です。
幸い若い頃少しかじったデッサン画を思い出して、映画の名場面を模写しているうちにこれが面白くなってきた。
郷愁への旅路は主として私の水彩画(素人ですが)によってご案内できれば幸いと思っています。


☆ 星の数ほど店はあるのに...。

星の数ほど店はあるのに...

 「世界に星の数ほど店はあるのに、なぜイルザはこの俺の店に来た?
今度は俺のためにだけあの曲を弾いてくれ...。」


驚きと戸惑いが男の表情と肩の線に表れています。

「ボスもう帰りましょう」

敬愛するボスの心情を察したショウピアニストのサムは同情の眼差しをリック(ハンフリーボガート)に向けている。ここは名場面ですね。

あまりにも有名なこの映画のあらすじは割愛します。

この映画をNYタイムズ紙は
「針金でつきさすような鋭い感銘と胸の高鳴りを覚えさせる。完全無欠で芸術として君臨すべき最高峰の映画」と絶賛していますし、数年前、TVで特集した<アメリカ愛の映画ベスト100本>ではNO1に選ばれている。

君の瞳に乾杯。

☆ 君の瞳に乾杯。


「さあ、泣くなよ。君の瞳に乾杯!」

イルザ役には瞳の美しいイングリットバーグマンと、表情を変えないニヒルな男ハンフリーボガートという絶妙な配役がこの作品を永遠の名作に仕上げました。

じつは当初、リック役はロナルドレーガン(第40代大統領)だったそうだが、陽気すぎてこの役には不向きと監督はみていた。
丁度レーガンが兵役に召集されたのを機にボガートが抜擢されたエピソードが残っています。もしあのレーガンさんが抜擢されていたらアメリカの歴史は変わっていたかも。

ボガートは過去も未来もなく今日だけに生きるニヒルな男を演じ、一方スエーデン生まれのバーグマンは運命に翻弄される美貌の女性をみごとに演じた。
私はこのバーグマンをはじめてみたときのあまりの美貌にびっくりしたことは今でもよく覚えている。


☆ 時の過ぎゆくまま...。

時の過ぎゆくまま...。


「忘れちゃいけない キスはただのキス ため息はため息 ただそれだけのこと 時の過ぎゆくまま...」

リックが経営する店は、サムの歌と歌を楽しむ客で賑わっていた。
当時カサブランカは自由の国アメリカへ脱出する重要な中継地だった。
戦火を避けてアメリカに亡命するヨーロッパ人は、闇のルートでビザを得て、リスボン経由でアメリカへ渡ろうとカサブランカに群がったのだが、ここで足止めをくいひたすら待つことだけに終始した。
Wait Wait and Waitという英語の使い方をこの映画で知ったことも覚えている。
私はこのモノクロ映画をあえて水彩のカラーにしてみました。
サムの弾くピアノをグリーンにしたのは、実物を見たことがあるからです。
なんでもオークションで日本人が落札し、どこかで展示されていたのを見た記憶があります。
実物をみたとき、なんて小さなピアノだろうと思った。

カサブランカの花。
(ここで失敗談(^_^;)です)
ピアノ弾き黒人サムの顔を色濃く塗っているうちに、あの映画ETの怪物の顔になってしまった。ピアノに近づいたリックが
「ん!?ありゃ、サムお前いつからETの顔に?」といっているように見えてくる。(^_^;)


☆ カサブランカの花。

夏が近づくと我が家の庭にも毎年この花が咲き、あの美しかったバーグマンの清楚なイメージとダブリます。

カサブランカはスペイン語で白い家という意味があり、カサブランカの白い家並みをさしています。

カサブランカの花は、日本の山ユリがヨーロッパで改良されてその花のイメージからこの名前がつけられたと記憶しています。

カサブランカの街並み。


☆ カサブランカの街並み。

いまのカサブランカの中心街は西欧風の近代ビルが林立していて、人口300万人のモロッコ最大の都市に発展しているそうですが、行ってみたくなります。


☆ 男はつらいよ。


ラストシーンにも感動しましたね。

とても美味しい料理を食べたあと、ふさわしい爽やかなデザートをいただいたときのような満足感でいっぱいでした。

しかしこの映画、製作時まともな脚本がなく結末が未定とあって、バーグマンは最終的に夫とリックのどちらと結ばれるのか分からず、困ったと語っていますが、リックは恋にやぶれて世に背を向け、新たな愛で人生を再認識し、愛するがゆえに女と別れるという結末になっています。

男はつらいよ。


このくだりは山田洋次監督の「男はつらいよ」の寅さんシリーズに重なってしまいますね。

そういえば、ダンディーが売り物だったボガートのソフト帽、寅さんもかぶっておりましたよ。


私の最も懐かしい映画とともに、ノスタルジーの世界にご案内したつもりですが、モグラさんご同輩のみなさんいかがだったでせうか?
それではまた。









(第5話の参考図書)
講談社発行 20世紀シネマ館
朝日新聞社 世界シネマの旅3


(お詫び)
第4話の「食いしん坊のA.LA.CARTE!」を途中で中断して申し訳なく思っています。
じつは宮崎市で取材した写真が私のPCのトラブルから消滅してしまいました。
機会をみて再び取材して投稿させていただきたいと思っています。




(その1) カサブランカ (その2) 第三の男  (その3) ローマの休日

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