カウベル母娘の「庭めぐり旅日記」

第3話 デジカメ探訪!異国情緒のある風景。

(その3、大阪、恋物語の街角)


☆ イチョウ黄葉日前線。

中之島公園の紅葉はNYの恋物語を連想させてくれる。


 11月26日、おとうさんは通勤途上で毎朝目にしていた岡山市赤坂台近くにあるイチョウの大木が、鬱金(うこん)色の衣をすべて足元に脱ぎ捨て、丸裸で立っている姿に、晩秋が終わりを告げていることを確信したのです。

 イチョウはユニークな葉形といい、街路樹でお馴染であったり、お寺の境内や校庭のシンボルツリーだったりするから、子供の頃から親しみがある。
 この木は植物でありながら、季節の移ろいとともに変化してゆく姿かたちを眺めていると、なんだか人間に近い生き物のような親近感をおぼえてしまうのです。イチョウは雌雄異株で、雄花では動物にあるような精子をつくり雌花との生殖で銀杏の実を結実することや、銀杏を覆う外種皮の異臭は動物的であることなどがいっそうそう思わせるのです。

イチョウ黄葉日前線(ヘルプ1)は北から徐々に南下して、関西地方の平年値は11月中旬のようです。これは北海道や東北地方よりも略々1ヶ月も遅れてやって来るのです。


☆ こだわりの価値観。

中之島は異国情緒が漂う(中央公会堂)

 11月中旬のある日、おとうさんは大阪心斎橋近く、表通りの御堂筋から少し奥まった処のビル2階にあって、ちょっと洒落た料理店の片隅のカウンターに付き、その日の所用を済ませた安堵感からいつもの自分を取り戻していた。その店は和の食材を仏料理風に仕上げたこだわりの料理を饗してくれたのだが、その味覚といい、その分量といい、静かで上品な店内の雰囲気といい、なにひとつ申し分はなくおとうさんはこの店を運良く選んだことで満たされた気持ちになった。

 こだわりとは、けっして贅を尽くしたものをいうのではなく、応分の経済力の範囲内で、かぎりなく気持ちを満たしてくれる度合いの高さだとおとうさんは思い込んでいる。だから仕事を離れたいわゆる自分の余暇を、趣味にせよ娯楽にせよ、そのために費やした時間のあとで、結果の満足度合いが高ければ、費やした時間がどんなに長くてもそれはけっして徒労ではないのである。 


☆ 大阪という独立国。

  「くいだおれ」と言われる大阪独自の食文化は有名だが、この日おとうさんは偶然にもその文化のレベルの高さを再認識した。文化とはこだわりの結晶にほかならない。

 大阪という街には食文化のみならず、色々なこだわりの結晶が育まれてきた理由がありそうな思いがふと頭をよぎった。そしてこの街のそうした風土はどこか遠い国のどこかの街の風土と少し似ているな?という思いも同時に頭の隅をかすめたのだが、それがどこだったか?直ぐには思い出せなかった。


 大阪人気質を語った面白い話がある。「日本の中に大阪という独立国があり、タイガースフアンは日本の中の異民族である」という。こんな冗談が出る程に、ここの土地柄は強い個性を持っていると言うのだ。彼らはエネルギッシュで自己主張が強く陽気でよくしゃべる。おまけに大阪人は自分の腕1本で金儲けができるたくましさがあると言う。大阪は才覚さえあれば誰でものし上がることが可能な土地柄で、それは東京と違って肩書きではなく、能力や人柄でその人を評価する気風がそれを支えているからだとも言う。
 なるほど、ここの街には「こだわり」の結晶といえる何かが根付くのに適した理由がたしかにあるわけだ。

☆  晩秋の紅葉が似合う街角。

御堂筋のイチョウ並木は白いビルによく映える。


 10月16日、BS−iが映画「オータムインニューヨーク(※)」を放映した。観ていたおとうさんは、物語はさておきデジタル画面が映し出したNYの街を彩る紅葉や黄葉の美しさに魅了されてしまった。

 人種のるつぼ、あらゆる業種のビジネス、多種多様な文化が息づく街NYは、歴史ある欧州の街々で見られるような飾り気や気取りがない。自然をそのまま長方形に切り取って残したセトラルパークの秋景色は、そんな街並みと見事にマッチしてしまう。この映画のすごさは、「ときめき」から始まり「はかなさ」に終わる恋物語の展開をNYの街景色にオーバーラップさせているところだ。
鮮やかな紅葉の街並みから始まり、一面雪景色のセントラルパークで終わる、
そんな映像をみているとNYの街そのものがこの映画の重要な役割を演じているような気がする。

 洗練された味覚を堪能したおとうさんは、店を出て南北に真直ぐ伸びる御堂筋を心斎橋から北に向かって歩いてみることにした。街路樹のイチョウ並木は緑色から黄色にお色直しをしようとしている。高層ビルの白い壁面に黄葉のイチョウの大木が美しい。
淀屋橋を渡ったところで中之島公園の紅葉が視界に飛び込んできた。その瞬間、おとうさんは前述の映画を思い出したのだ。

☆ 浪花の恋の物語。


 大阪が生み出した文化の一つに浄瑠璃がある。近松門左衛門の作品はいくつかの映画になっているが、その中でおとうさんの記憶に残っているのが、「浪花の恋の物語」と「曽根崎心中」である。いずれもはかない悲恋の結末であるが激しく燃え滾る恋物語である。
大阪という独特の土地柄は、こだわりの粘っこさで徹底的にものごとを極めようとする思いが、こんな恋物語にしてしまうのだろうか。

 NYの恋物語は大阪の浄瑠璃とは趣が違うのだが、前述の映画で渋い二枚目リチャードギアが演じるプレイボーイな中年男、こんなおっさん大阪の街角でうろついていてもおかしくないほどこのあたりの雰囲気は似ている。

 おとうさんは、晩秋の御堂筋を歩きながら黄葉の似合う街の雰囲気がNYの雰囲気と共通するばかりではなく、浪花の街が織り成す人間模様は、モザイク都市といわれる多種多様なNYのそれと、どこか絵柄がすこし似ているのではないかと考えるのです。

NY5番街の黄葉の時期は北海道と同じ。
右はセントラルパーク。
模倣されたアメリカの街並みも違和感がない
(南船場で)


☆  熱狂する仲間意識の昂ぶり。

  淀屋橋から曽根崎を歩いて阪急梅田駅にやって来た。1日に数百本の電車が発着するこの駅のコンコースを歩いていると、マンハッタンの重厚なグランドセントラル駅を思い出す。おとうさんはこの駅から地下鉄に乗ってブロンクスにあるヤンキースタジアムの試合を観戦したことがある。ちょうど梅田から阪神電車に乗って甲子園に行くくらいの距離である。その年NYヤンキースがワールドシリーズに優勝してダウンタウンを凱旋したのだが、ニューヨークっ子の熱狂ぶりは、タイガースを応援する浪花っ子の熱狂と似ていた。
 それは、歴史や伝統で培われた郷土愛のようなものではなく、類は類を呼ぶ仲間意識の昂ぶりのようだった。

 イチョウのような鬱金色に髪を染め、打ったバットを放り投げる派手なアクションで人気の大阪(近鉄)のあのおにいさん、東京(巨人)に行けなくてほんとよかった!よかった!
 大阪をどうしても離れるなら、いっそNY(メッツ)あたりのユニホーム着たほうが似合う。なぜなら大阪人気質はNYでそのまま通用するのだから。

ツイン21ビルは在りし日のNYを偲ばせる。

☆ 実際に起こった映画「ダイハードV」の惨劇。

 「ダイハード」はブルースウイルスが主演するスリルサスペンスの娯楽映画だが、これまでよりスケールの大きい迫力が人気をよび、そのパートVは1995年NYを舞台にして制作された。

 この映画が封切られは翌年、おとうさんは関空からデトロイトに向かう機内でこの作品を初めて観た。日本語字幕がなかったので、筋書きはほとんど分からなかったのだが、度肝を抜く画面のスリルに驚いたものだった。
 もっとも驚いたシーンは、NYの大通りに面した高層ビル街でビルが爆破される場面だった。大音響とともに大通りに爆風が走り、コンクリートの破片や粉塵が舞い上がった。車が吹き飛ぶシーンなど、白昼のNYの街中で、どのようなトリックを駆使して撮影されたのか不思議に思ったものだ。
たかだか娯楽映画の作り話で、こんなことは現実にはあり得ないと納得して、その後この場面のことは忘れていたのです。

 ところが昨年の9月11日、モグラさんにこの「庭めぐりシリーズ」の初回原稿を、恐る恐る送信したその日の夜のことである。
NYでとんでもない規模の惨事が勃発した。世界貿易センタービルにはおとうさんも所用で訪れたことがあるから我が目を疑った。
あれからもう既に1年と数ヶ月を経過して、あの忌まわしい事件も、忘れられようとしているのでそっとしておきたかったのだが、おとうさんはこの大阪に来て思い出してしまったのです。

 この日所用があって、大阪駅からJR環状線に飛び乗って、降り立った京橋駅の眼前にそびえる、あの倒壊したツインビルの在りし日の幻影を目の当たりに見たからなのです。(つづく)


貿易センター90階から見たNY市街。
この位置からの眺望は幻となった。
在りし日の貿易センタービル。
ツイン21の高さ3倍、容積12倍。


※ オータムインニューヨーク
http://www.eiga-portal.com/movie/autumninny/01.shtml

(ヘルプ1)黄葉日前線 
黄葉日とは、その植物を全体として眺めたときにその葉の色の大部分が黄色系統に変わり、緑色系統の色がほとんど認められなくなった日で、平年値とは、1961年から1990年の30年間の平均値。気象庁のデータによる。



(その1)長崎グラバー邸界隈 (その2)イングリッシュガーデンハウス (その3)大阪、恋物語の街角

(その4)幻の王宮庭園 (その5)牛窓、シチリアの海

モグラのメニューへ 第1話 出雲路の旅 第2話 土佐浜街道 第3話 デジカメ探訪 第4話 食いしん坊


久しぶりのカウベルさん・・・相変わらず、カウベル節がさえてますねぇ。
なるほど、そう言われればNYと大阪は似ているところがあります。

あのいままわしき9.11から早や1年・・・
赤坂台のイチョウと共に、2002年も過ぎようとしています。
2003年こそ、キット良い年でありますように。・・・(モグラ)

COW BELLさん宛の応援メッセージはこちらへ・・・