カウベル母娘の「庭めぐり旅日記」

第3話 デジカメ探訪!異国情緒のある風景。

(その5、牛窓、シチリアの海)


☆ 料理長がこだわる剣豪「武蔵の膳」。

映画「ニューシネマパラダイス」のタイトルは部屋越しの海とモリコーネの優美な主題曲で始まる。

 毎回話の切り出しから、あさましくも「酒食」に関するネタが多くて、このたわごとシリーズを読んでくださっている、奇特な方がいらっしゃるとすれば、「その方々を冒涜していないか?ってこと、おとうさんは反省しなければなりませんよ!」ってカミさんが横から申しております。
 まぁ、まぁ\(^^;それはご勘弁いただくとして、とにかく筆者は美味しい情報には目がないのです。

 大河ドラマ「武蔵」ブームでにわかに沸き立つ、ご当地のS新聞に目をやると、このブームに便乗したイベント記事がやたらと目に付く。
そんな折しも、立春を過ぎた2月の或る日、おとうさんはこんな記事を見つけた。
 「宮本武蔵」出生の謎を秘めた岡山県大原町特産の、黒大豆や山菜といった食材を活用し、こだわりの懐石風に仕上げた「武蔵の膳、おぬしいかがかな?」という見出しだ。
 ちょうどわが家の裏山にそびえる、腕のいい料理長で有名な、あのインターナショナルなホテルのアイデアである。

 新免武蔵(たけぞう)が愛用したといわれる、わが家先代の出身地、岡山県勝山町特産の高田硯を器に使い、巌流島に見立てて前菜を盛り付けるなど細部までこだわった「武蔵の膳(※)」がその料理長によって創作された。岡山を訪れる観光客にぜひ賞味していただきたいというPRである。

 これはもう観光客に限らず原住民のおとうさんでさえ、作州勝山の藏元に眠るあの銘酒「御前酒」と「お通」を横に侍らせてこの御膳を賞味したくなる。
 こんな話になると、その道の達人モグラさんのご意見を読者は期待されると思いますがぁ、どなたもご異論はないでしょうね? ん?やっぱし。

☆ 野趣あふれる味覚は「マカロニ」の味に通ずる??

海に向かってなだらかな斜面はシチリア島のイメージがある。


  「武蔵の膳」から、いきなり長靴の国イタリーの不思議な食べ物の話に移って読者のみなさまを錯乱させるつもりはない。
カミさんの忠告にしたがってそろそろ、おいやしからマジな話に戻ろうと焦っているだけの話です。

 NHKの大河ドラマ「武蔵musashi」は、ぼつぼつ茶の間フアンの期待に応えて佳境にさしかかってきたようだ。
ところがどうも以前の時代劇と、なんかちょっとイメ−ジがちがうことにみなさんも既にお気付き?だと思う。はたしてどこが違うのか???

 「あんなに背の高いお通ってあの当時いなかったわよ。まるで外国人が演ってるみたい。」とカミさん。やはり目のつけどころが違う。美人へのねたみが正直に言葉になる。
「それに、現代言葉よね。あんな言葉使いあの当時はしてなかったと思うわ」
 そうだよね、以前の時代劇口調でやったものなら、茶の間で見てる今どきの茶髪民族はもうイライラして観てられないでしょうからね。それし、言ってる意味も分からないし。(^^ゞ 

 もうこんなこと言っても分かる人少ないか。
おや?あなたには分かる? よかったご同輩。何?ん?茶髪のお孫さんが3人も!^^;

 茶髪に元服する前の孫が2人いるおとうさんは「武蔵」のタイトルに流れる音楽を聴いて、いままでの大河ドラマになかったイメージを感じた。時代劇には似つかわない優美な旋律で始まるからだ。


☆  エンニオ・モリコーネのサウンド。

窓越しに見える海の色は映画で見たシチリアの海と変わらない。


  NHKは「武蔵」の制作にあたって音楽担当に初めて外国人を起用した。
その意図についてチーフプロデューサーは次のように述べている。

モリコーネは1960〜70年代にヒットした映画「マカロニ・ウエスタン」の音楽を担当して観客をしびれさせた。「武蔵」は剣の道一筋に生きた。その一途で孤独な生き方はそのマカロニのガンマンに通ずるものがあるのでは?という考えからであると。

 当のモリコーネは、「武蔵の精神性や心のひだに触れるようなもっと穏やかなメロディーがいいと思う。少なくともマカロニウエスタンとは趣が違う」という意見で引き受けている。
 そのモリコーネサウンドで有名な映画がある。


☆ 映画狂へのオマージュ、「ニューシネマパラダイス」。

  映画全盛時代が偶然にも青春だったおとうさんたちの輩は、いま青春が茶髪に染まった輩たちとは感受性が豊かだったと思う。

 あの当時、唯一「映画」を通して動く異文化を目にしていた。
宇宙の果ての映像がリアルタイムで茶の間に届くいまの有様は、想像すらできない時代であった。
だから茶髪民族が少々のことで驚かないのとは違って、スクリーンに投影された未知の地球上の違う世界に感嘆し驚き、むさぼるように映画館に通った。映画のネタも新鮮で必ず正義が負けることはなかった。
 いま考えて見ると、そんな映画に一喜一憂した青春時代、映画に費消した時間の累積はかなりのものだったような気がする。

 いま、茶髪民族が一様に懐中に折りたたんで忍ばせている武器を懐から出して、武力抗争か民族間の内紛か定かではないが、よく飽きもせず親指端末操作に余念のない、あの時間の費消に匹敵するだろう。
 おかげで、感受性が豊かなおとうさんの輩は、忙しいいまの世の中からできることならもう一度あの時代に逃避したい、叶わぬ願望があるのだ。

 その願望を叶えてくれる映画があった。
敗戦の中から映画の復興とともに立ち上がった国、イタリーのシチリア島を舞台に制作された、トルナトーレ監督モリコーネサウンドの「ニューシネマパラダイス(※)」である。

オリーブと海が見える牛窓は南欧の雰囲気が漂う。 オリーブの木陰からアルフレードとトト少年の自転車が??

☆ 悲しいわけでもないのに、こみあげる涙は??

 最初おとうさんはこの映画を観てわけも無く感動してしまった。
映画ならではのテクニックを網羅してこれほどに見る者を感動に落とし入れる作品は、自称映画通のおとうさんもあまり知らない。
 或いは映画文化の変遷と共に過ごした、物語の時代背景のせいかも知れない。

 念のため、まだご覧でない方々にあらすじをごく短く要約しておこう。

30年振りに帰郷したトトは町外れの防波堤で昔の恋人エレナと再会を果たすが、運命の悪戯を知り愕然とする。


 ローマで有名な映画監督として成功した主人公(愛称トト)のもとに、故郷シチリアでトトが父親のように慕っていた男(アルフレード)が死んだという知らせが届く。

 故郷の村に1軒しかなかった映画館の映写技師をしていたアルフレードはトトを我が子のように可愛がり、映画好きなトトもその男の下で映写技師として成長してゆく。
 しかしトトの将来に自分の夢を託していたアルフレードは、トトにシチリアを離れることを勧める。トトがローマに発つ日、アルフレードがトトを抱きしめながら耳打つ。

  「人生はお前が見た映画とは違う。もっと困難なものだ」
  「村を出ろ。帰ってくるな、私達を忘れろ。郷愁に惑わされるな」
  「自分のことを愛せ。子供の時映写室を愛したように」
  「もうお前とは話さない。お前の噂を聞きたい」
  

 アルフレードの忠告どおりトトは30年間一度も帰らなかったシチリアの地を踏むことになる。しかもその男の葬式に参列するために。 

 ここからの話はそっと伏せておくことにしよう。成功はしたが仕事に疲れたトトを昔と変わらない故郷が迎えるシーンを見ていると、悲しいわけでもないのにこみあげてくるものを抑えきれなくなる。

 トトを3人の役者が演じているから、まったく別人に成長している展開は映画だから使えるトリックである。見る側もまんまとそのマジックにかかってしまうから不思議である。

☆  自作のホームシアターで。

  今年の正月3日、この映画の完全オリジナル版がBSで放映されるのを楽しみにしていたおとうさんは、予ねて電器店で目をつけていた現品限りの廉価な「ホームシアターシステム」を手に入れた。

 ついでにホームセンターで細工が容易なパイン材を調達し、得意な木工技術を駆使しておとうさん専用のホームシアターを作った。僅かな経費でお気に入りの部屋に改造したのだった。

 部屋が完成したその日の深夜近く、あの白髪のトトが、アルフレードが形見に残したフィルムを見ているラストシーンを、頭の後ろに手をやってこみ上げる感涙で心の洗濯をしている、もう一人のトトがその部屋にいた。

(第3話完)

海を見下ろす丘の上のホテルではくつろいだ時間が満喫できる。

☆ あとがき

 この映画は1989年に作られ、1990年にアカデミー賞を受賞しています。
筆者は湾岸戦争が勃発した1991年に初めて南欧を訪れて、明るい地中海と花庭に囲まれた人々の生活を見て羨ましく思った。あれからもう12年が経ちます。

 更に数年後、モグラさんご夫妻のすばらしい花庭へふとした偶然で訪れ、激しいカルチャーショックに見舞われた。以来ガーデニングに取付かれ、パンジーの類しかなかった我が家の庭にも、ジギタリスやデルフィといった欧州の美しい花たちが登場する。

 今年、あの湾岸に再び不幸な危機が迫り平和が脅かされているところです。
これからどんな世の中になるか分かりませんが、筆者は花を愛で庭を愛し平和を願う気持ちだけは変えないつもりです。
モグラさんのお陰でYB岡山の活動を通してお知り合いになったみなさん、これからもどうぞよろしくお願いいたします。(ハンドルネーム・カウベル)


※ 「武蔵の膳」
http://www.oih.co.jp/event_info.html

※ 「ニューシネマパラダイス」
http://www.geocities.jp/hoshitomohito/newcinema.htm
http://www02.so-net.ne.jp/~toto/movie/best10/top1/top1story/top1story.htm



(その1)長崎グラバー邸界隈 (その2)イングリッシュガーデンハウス (その3)大阪、恋物語の街角

(その4)幻の王宮庭園 (その5)牛窓、シチリアの海

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またまた感動的な 第3話の最終回。カウベルさん、いつも素敵なお話をありがとう。
未だ見ぬ名画「ニューシネマパラダイス」・・帰りにレンタルビデオを借りてこよっと!
シチリア島の牛窓、素晴らしい写真でした。
暖かくなったし、庭仕事が忙しくなりますね。チョット一休みしての次回作を期待しています。(モグラ)

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