英国縦断庭めぐりツアー(スコットランド〜湖水地方〜コッツウォルズ) 特別寄稿
『旅の半ばで・・・』 (Moffat)
ビーチグローブガーデンをアップして数時間後、イヴリンさんからレポートが送られてきました。
何と、モグラも知らなかった“モファット”での大事件・・・はたしてその“謎”とは・・・
「モファット」と聞いて個人的な旅の思い出を綴らせていただこうと思った。 美しい山並みから峠に向かう間、何度ため息をついた事だろうか。 ヒースの丘がどこまでも続き・・・時折現われる「チェビオット種」の珍しい羊の群れ。 何十年も前に観た≪嵐が丘≫の映画が、車窓の景色とともに脳裏をよぎって行く。 その頃は此処を訪れるなんて、自分自身想像すらしなかったと思う。 スコットランドから国境を越える途中に、私たちはその町に立ち寄った。 この旅の主たる目的はガーデン探訪。 でもショッピングタイムのひとときを与えられると、それまでイングリッシュガーデンひと筋だった私たちの気持ちは、柵から放たれた羊のように自由に好物の牧草を求め三々五々散って行った。私はというとスキップしながら走った・・・・・! 「moffat pottery」 と言う頭上の看板を読んだかどうか記憶にない。 ただ、お店のかわいさに吸い込まれるように私(たち?5〜6名いたかな)はドアを開けた。 そこには、初老の(失礼)男性一人がオーナーとして店番をしていて、私たちを見ると満面の笑顔で出迎えてくれ、すぐさま隣の部屋に案内してくれた。 案内・・・? 半強制的に連れて行かれたと言っても過言ではない。 私はまだお店に入ったばかりで、品物さえまだ何一つ見てないというのに! 案内された隣の部屋に入り、まず目に入ったもの。 ギャラリーにもなっているが、何故かピアノが特等席に展示?されている。 スコットランド訛りで話す彼の言葉の単語と単語をつなぎ合わせ、何となく分かったふりをして頷いていると、「まあまあ、買い物よりも私の歌を聴きなさい。せっかくの旅だから・・・」と言ったかどうかは不明だが、突然ピアノを弾き始めた。 物凄い声量に圧倒された! 一同、鳩が豆鉄砲をくらった顔を互いに見合わせた。 それこそあの場に軟禁?された数人は、魔法にかけられたように足がすくんで動けなかったに違いない。 曲のジャンルが判らず、オペラ?とかカンツォーネ?とか勝手に口々に言った。 何曲かきいているうちに「ゴスペル」と気づいた。 美しいテノールの響きが、頭のてっぺんまで響いてくる歌声に、しばし時を忘れさせられていた。 「もう一曲、さあもう一曲、いい歌だから聴きなさい」と、ブレスしながら休まず歌い続ける彼。 誰かが小声で言った。「集合時間に間に合わなくなるよ」 現実に引き戻された私は「ありがとうございました。とってもすてきなお声と歌でした。」と帰ろうとすると、「後一曲、聞いて帰りなさい」とご親切に!歌いながら言ってくれる。 「でも、私たちはこれから湖水地方に行くのでバスの時刻に間に合いません」 と言ったつもりでも、きっと伝わっていないのだろう・・・新しい曲を弾き語り始めた。 私たちは顔を見合わせ暗黙の・・・後一曲だけ聴くサインを目で交わした。 ところが、その曲は果てしなく延々と何番も続く曲であった。 後で≪When the Roll is Called Up Yonder≫と言う曲目だと知る。 部屋の空気が落ち着かなくなり、二人そして、一人と「ゴスペルライブ」を後にする。 私も間に合わない〜! (時間さえあれば、心満たされるまで聞いていたかった) 「もう時間がないので!」と何度も身振り手振りでやっとわかって貰えた時は、安堵した。 そういう状況下だったので、同行者の殆どは彼のお店で何も買えず、半ば「聴き逃げ?」状態。取り残された最後の私は、せめて御礼に何か買おうと見回したが、陶器はボーンチャイナのように薄くて軽いものではなく、ぽってりと厚みのある品物だったので諦めた。結局お店のデッドストックのような埃をかぶった小物を2つ買った。決して自分の作品を押し売りはしない。 帰り際、追いかけるように手に持ったものを渡しに来てくれた。 「何?」 手渡されたものは「カセットテープ」。 見れば彼が写っている。 そうなんだ! 彼は歌う陶芸家として、この地では有名人だとその時始めて知った。 もしかすると・・・・・彼は有名な自分を訪ねてはるばる日本から来てくれたと解釈して、サービスしてくれたのかも・・・。(胸が痛みます) カセットの表面にしっかり値段が貼ってあるので、支払おうとする私に彼は「アナタにプレゼント!」と言ってくれた。 カセットか〜、懐かしい。 そして別れ際に、軽く抱きしめてくれ、「またいらっしゃい!」と言葉をかけてくれた。 いつまでも笑顔で手を振る姿が忘れられない。 そして、帰りの私はスキップの余裕もなく、バスまで必死で走った! 日本の社会では、物が大量に生産され、そして多くの物が消費されるのが当たり前。彼我の生活(経済)観念の落差にこそ驚かされたが、正真正銘なスローライフを、地に足を着いて生きていることにとても感動した。 大量消費に慣れた私も、この≪モファット≫で生活する人々(モファットだけに限らない)の堅実でつつましい姿は、永遠であれと願う。 そして今、「彼」のゴスペルを聞きながらこの原稿を書いている私。 ここは日本。 悠然と流れる時の感覚、懐古的だけどゆとりのあるイギリス生活。 此処にもあるだろうか・・・・・? 自然や時間に逆らわない・・・・そんなイギリスが大好きだ。 いつかもう一度、モファットでその美しい歌声を聞かせてください。 |
2004年8月21日 モファットの思い出を綴る |
イヴリンさん、素敵なお話をありがとう。あたふたとバスに乗り込んできたから何があったのか?と思いきや・・・ 彼の名前は、Gerry Lyonsさん、歌も、ピアノも旨いはず・・だって、スコティッシュ・オペラの人気歌手だったのです。“店のお客様は、ゲリーさんのアルバムから、賛美歌の個人公演を楽しむことができる。”と、彼のサイトに書いてありました。それにしても、い〜思い出が出来ましたね。 ・・・(モグラ) Gerry Lyonsさんのサイト:http://www.thesingingpotter.co.uk/ |